図学教育の現況① 〜図学を取り巻く時代背景

ここでは、図学教育の現況について述べる。(※ここで記述している内容は、図学学会の学会誌である「図学研究」や筆者の経験を元に記述をしている。主観も多分に含まれている箇所もあると思うがそれもあえて述べながら議論をしていきたい。)

図学は、フランスの数学者であり科学者のガスパール・モンジュ(1746-1818)が考案した画法幾何学をもとにして確立されたもので、日本では明治期に西洋から取り入れられた。図学が教育に取り入れられた背景には、高度成長期における工業主体の経済が大きく影響していると思われる。初期の製造工程は、手工業を中心とした職人の経験を重視してものづくりを行う時代であった。それが、機械構造物の大量生産を効率的に行う上で、設計・製図の重要性が増すとともに、図面の役割が大きな位置を占めるようになる。現在のように、コンピュータやプロッター(ペンプロッター)がまだない頃、図面は人の手で描く必要があり、3次元形状を2次元の図面に起こしたり、図面を読み取って機械構造物を組み立てるためには、図を読み解く方法である画法幾何学や図形科学と呼ばれる分野の知識を身につけ、図や立体形状を直感的に読み解く能力が必要とされた。

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ガスパール・モンジュ

このように図学は、工業製品の製造、販売という国力の向上に繋がる大きなモチベーションを背景に、工業系の高等教育機関(大学)で製図の前段階で学ぶべきものとして取り入れられた。そして、ものづくりや造形教育の観点からも大学のプレ教育である小・中・高校教育における図形教育の基礎として取り入れられていた。資源のない国日本では、この「ものづくり」が最も重要であり、当時の時代の要請からも図学が重要な位置を占めていたことは容易に想像できる。